アートとは何か。臆面もなく言うとある種のマジック(=魔術)だと思っています。
「美術・芸術」の「術」を調べたら、「行」は十字路を意味していて、「行」以外の部分は、霊力を持つ動物を意味すると知りました。十字路の真ん中で動物を使って旅の無事を祈ったことが字義らしい。作家と一緒にアートプロジェクトを進めていると、彼らが直感で街の隠されたポテンシャルを引き出します。それは手段を意味する術(すべ)ではなく、どこか魔術めいていて術(じゅつ)のように見えるんです。
アートというと、頭に浮かぶのはアートワークとか作品。でもそれは結果出来たもので、アートではないんです。アート自体は、物ではなくて人の営みだと思う。ぼくは地域づくりなどを扱う土地利用計画の分野出身で、1989年以降アートと街のプロジェクトを行っています。一昨年、自分が担当した「さいたまトリエンナーレ2016」。ここでも作家の魔術によって街自体への捉え方だったり、自分の考え方を再考させてくれました。例えば大宮駅ホームや構内の人々を撮影したアダム・マジャールの「アレイ#3」という作品は、我々の生活への疑問を提示してくれるような気がしました。ぼくがやっているアートプロジェクトとは、作品を通して考えを持ってもらうことなのかなと思っています。彼らのイマジネーションを借りて多くの人にアートを届けていく。これがぼくの本望ですね。
アートは人生を変える
アートがすごいと思うのは、時間はかかるけど1人の人生を変えてしまうんです。地域でアートをやると政治が絡んできます。「税金の無駄遣いだ」とか言われたり、美術館でやれば問題ないリスキーなこともたくさん。運営サイドも集客や集金を気にします(笑)。
それでも地域とアートを結び付けることで副次的な効果もある。シンデレラの一夜の出来事と一緒で、ひとつの幻視・幻影なんだけど、その一度見た夢の出来事が人生を変える一歩になる。アーティストは街を賑やかにするためにやっているわけではないですが、ひとつのきっかけづくりの場を提供することに、私たちがやっていく意義があるのかなと思っています。