

アートとは、ヒントを与えてくれることだと思います。
英語で教育を意味する「エデュケーション」は、もともとラテン語が語源。調べてみると「ヒントを与える」という意味にたどり着きます。美術館はアートを見て、みなさんにいろいろな考えやヒントをもたらす場所だと思うんです。でも日本の美術館ではまだその部分が浸透していません。もともとの日本の美術館の立ち上がりを考えても、博覧会場で物を見せる場所で、特に教育ということに関して特化していませんでした。そもそも美術館の位置づけが違うんです。アメリカの場合は教育施設と連携しています。シカゴ美術館もボストン美術館も美術大学と一緒になっています。美術の本物を見ながら、そのヒントから自由に学べる場所なんです。
われわれの美術館の目的は、この「ヒントを与えること」なんじゃないかなと思ってます。例えば日本の学校教育法では答えはひとつだと教える。受験勉強しかり、日本の教育の良くないところで、本当は子供たちに何千何百と答えがあることを教えなくちゃいけないんです。先生が「これは『赤』です」と言ったから「赤」が正解。そうではなくて「白」が「黒」に見える人もいるわけだから、そういう可能性に理解を示す。自分で学びたくなるような仕掛けをたくさん用意してあげて、自分の知性を養える場所こそ美術館だと思っています。
美術のたのしさを発見してもらう
兵庫県立美術館に赴任して今年で9年経ちました。市長さんに掛け合って道路の名前を変えたり、国土交通省にお願いして電線を地中に埋めて景観を良くしたりしています。また建物の上にカエルのオブジェを置いてみたり。こういうひとつひとつのきっかけで美術館の存在価値が変わると思うんです。入館が見込める土日でも閑古鳥だったんですが、今では入館者数もだんだんと増えてきています。
ぼくが以前館長を勤めていた金沢21世紀美術館では、金沢市内4万人の生徒を招待しました。現代美術ってたのしいということを発見してもらうことが大事だと思ったんです。そこから子供たち自らが親に「美術館に連れていって」と言うようになる。今では金沢21世紀美術館は親子づれのお客さんがすごく多いんです。兵庫県立美術館でも、どうすれば子供たちにたのしんでもらえるか。ヒントを与えてあげられるか。いつも子供たちの「教育」という点を考えながら試行錯誤しています。