

アートとは何か。アートはずばり言えないからアートなんだと思います。論理的に正確な答えを導き出せるサイエンスがもの凄い勢いで革新的に発達していますが、本来、このサイエンスとバランスをとるように発展しなきゃいけないのがアートだと思っています。
私は出版をやっていますから、言葉の意味を調べるときはいくつかの辞書をまず当たるのですが、お暇があれば「アート」、「芸術」、「美術」とそれぞれ調べてみてください。きっと堂々巡りになりますから(笑)。言語化することの難しさというか、それこそが奥深いところだといえますよね。
弊社は『美術の窓』と『アートコレクターズ』という美術雑誌を出版しています。『美術の窓』は作家のパートナーとして、『アートコレクターズ』はコレクターや美術ファン向けという視点。作品を『アートコレクターズ』的に見れば、この作家はなにをつくっているのかはもちろん、作品は売れるか、人気かどうか、またどのように前回の個展と変化しているか、どんなコレクターが購入したか、というようにマーケット目線で見ます。そうすると流行りというか、大きな流れが見えてきます。作品をどういう視点で見るか、作品との接し方ひとつでもアートは全然違う様相を見せるからこそ、ずばり答えられないんです。
日本には独自の文化がある
アートフェアは世界中にありますが、日本と世界では規模や出品作品、作品価格などとても大きな違いがあります。日本画と洋画というジャンル分けも日本独特だし、アートの社会的な受け止め方も異なります。作品の流通をみても、日本ではデパートの販売の力が強いなかで、ギャラリーは敷居が高いと現在でも言われています。作品の価値判断も作家の肩書きに依る部分が大きいというのも特徴でしょう。
一方、世界のマーケットを見ると、アートの文脈の中にどうやって作品を位置づけていくかを強く意識します。日本でももちろんコンセプトを重視した捉え方はありますが、ビジュアル重視で素直に鑑賞する人が大半だと思います。現在でも花鳥風月の人気は衰えません。アート作品の取引で動いている金額も桁が違いますし、そもそものベースが違うんです。世界といっても地域によって違いがありますし、日本にも面白い作品がたくさんあります。「多様性」はいま世界的に重要なキーワードの一つだと思いますが、そうしたことも意識しながらアートシーンの変遷をこれからも楽しみに見ていきたいです。