KOBE ART MARCHE

YOICHIRO OTANI / KEIKO TAKEDA / IKU HIDAKA / YUKI MURAKAMI meets KOBE ART MARCHEYOICHIRO OTANI / KEIKO TAKEDA / IKU HIDAKA / YUKI MURAKAMI meets KOBE ART MARCHE

「神戸アートマルシェ」では、コンセプトの一つでもある「新たなアーティストの発掘と支援」に基づき、公募展『Artist meets Art Fair』を開催してきました。
この公募展をきっかけに、これまでも多くのアーティストが、神戸の街からアートマーケットの世界へと羽ばたいていきました。
本連載「Stories After Art Fair」では、「Artist meets Art Fair」の過去の入選者のその後の活動の様子や、当時の想いについて伺っていきます。

今回は、2023年の「第8回 Artist meets Art Fair」入選者、大谷陽一郎さん、竹田恵子さん、日高衣紅さん、村上有輝さんへのインタビューをお届けします。
まだ、受賞後7ヶ月ほどしか経っていないにもかかわらず、すでに大活躍をしている4名に、応募のきっかけや、受賞後のご活躍、応募を考えている方へのメッセージなどを伺いました。

早速ですが、「Artist meets Art Fair」に応募しようと思ったきっかけを教えてください。
大谷
僕は地元の大阪にもどってきたのがきっかけです。
学生時代も含め、東京に約10年間住んでいたので、東京での展示の機会はあったのですが、関西での繋がりも増やしたいなっていうのが結構大きくて。そんな時に、「Artist meets Art Fair」を知りました。関西での繋がりだったり、展示の機会が得られたらと思い、応募しました。
村上さんと日高さんは活動拠点が関西ではありませんが、どのようなきっかけで応募されたのですか?
村上
僕も大阪出身なんですよね。
大谷さんのお話とほぼ被りますが、大学から金沢で暮らしていて、もう10年以上になります。金沢は東京も関西もどちらも行きやすいので、地元の大阪での展示活動もしていきたいと思っていました。
そのとき、Instagramで情報を見かけたことがきっかけで神戸アートマルシェを知り、公募展に参加してみようと思いました。広告写真に大学の後輩である三輪瑛士さんの絵が使われていて、それもきっかけになったと思います。
あとは、審査員の一人に、地元金沢の本山陽子さん※がいて、大学の学部時代に2回ほどグループ展に参加して面識があったこともあり、公募展が身近に感じました。
※ガレリアポンテ 代表 / KOGEI Art Fair Kanazawa 副実行委員長
村上さんは、いろいろなきっかけが重なり、ご応募されたんですね。
村上
もちろん、動機としていろいろな公募展に出してみたいという気持ちもありました。
日高さんは、茨城を拠点に活動されていますが、どのようなきっかけでご応募されたんですか。
日高
そうですね、私もInstagramなどで見たのがきっかけでした。でも、あまり場所や距離など考えずに応募して、「入選してから交通手段とか、ホテルのこととか考えよう」と思っていました。入選後、実際に展示している時にようやく遠いなと気がつきました。(笑)
私とマッチングしたギャラリーさんは、関西の方が多かったので、距離の部分は今後どうしようかなと思っているのが、正直なところです。
距離を気にしない熱意で応募してくださったのですね。日高さんは冷静なイメージがあったので、少し意外です。
日高
あと先考えずに行動することが多いんです。(笑)
竹田さんは、どのようなきっかけで応募されたのですか?
竹田
私は関西に住んでいるため、神戸アートマルシェはもちろん、神戸アートマルシェに出展されているギャラリーの展示も以前から見に行ったりしてました。それもあり応募する時には、このイベントの素晴らしさも分かっていたので、受賞し作品が展示できると決まった時は嬉しかったです。
2023年は応募数が例年の倍くらいあったと後で伺って驚きました。
ありがとうございます。この公募展の一番の特徴でもある「ギャラリーとのマッチング」についてはどのように考えていましたか?
村上
金沢に住んでいるので、関西で展示をしようと思うと、色々なギャラリーに自分でアポイントメントを取って、1つ1つ回ったりと大変だと感じます。神戸アートマルシェは関西圏を中心にギャラリーが1か所に集まって出展しているというのがいいですよね。色々なギャラリーを一気に見られるので。
ギャラリーに作家自身が売り込みに行くのは、なかなかハードルが高いですよね。その点「Artist meets Art Fair」に参加することでマッチングのハードルが下がるのは公募展の狙いでもあります。
入選すると、展示期間中、会場に在廊しますが、印象的だった出来事はありますか?
竹田
いろんな方の反応が直接聞けたことは印象的でした。また、ホテル型アートフェアだと、居住空間のような空間に作品を置いてイメージしてもらえる良さはすごくあったと思います。他にも入選者の方々など、同世代の作家さんと会えたのが良かったです。皆さんの考え方や姿勢を作品や話を通じて感じることができたのは印象的でした。
入選者の皆さんとの出会いも良い刺激になったのですね。
日高
同意見です。
村上さんはいかがですか?
村上
僕は卯辰山工芸工房にいたので同世代や近い世代の作家たちとは制作や素材、コンセプトの話だったりをしていました。同世代の仲間みたいな感じではないですが、これまで卯辰山工芸工房に入ってからと加賀友禅の工房にいた時を含め、ほぼ10年間ジャンルとしては工芸に身をおいていました。
工芸の枠で金沢市の工芸展や公募展にも出展していましたが、やっぱり神戸アートマルシェでジャンル関係なしに出展できたのが大きいです。工芸というジャンルを含めながら、僕は絵画としてやってるので、工芸を知らない人たちに向けても、絵画としてニュートラルに見てもらえる機会でした。
それに、同じブースで出展した入選作家の皆さんやお客さん、ギャラリーの方と話ができたのがやはり楽しかったですし勉強になりました。
村上さんから、異なるジャンルに身をおいたことで刺激になったとお話がありましたが、反対に大谷さんと日高さんはお二人とも文字をモチーフに作品を制作されていて、共通点があるように思いました。お互いの存在をどう感じていましたか?
大谷
僕は入選者が発表された段階から特に日高さんの作品を写真で見て気になっていました。
実物の作品を見て、直接お話ができてとても良かったなと思いますね。やっぱり実物を見たら写真と違ってクオリティはもちろんですけど、実物でしかわからない魅力みたいなものも感じました。

日高
大谷さん、ありがとうございます。実は私は大谷さんのことを以前からSNSで見ていて知っていました。憧れというか実際に作品を見てみたいなとずっと思ってたところで今回一緒に展示させてもらえたので、すごく嬉しかったです。「生の大谷さんだ!」と思ってすごく興奮しました。
ブース内でお互い近い位置に作品を展示していたので、お客さんも見ていて「違う作品なんだ」「同じ文字をモチーフにした作品だけど違う作家さんなのね」みたいな感じで、合わせて見てくれる方も多くて。
私はずっと版画というジャンルで制作してきましたが、大谷さんはデザインの分野の出身の方なので、(作品が)似てるんだけどちょっと違う部分もあり、共通点もあり、すごく刺激になりました。
ギャラリストとのコミニュケーションで印象に残っていることはありますか?
大谷
今も結構繋がりがあるんですけど、審査員を務めていたキャロルさん※とのやりとりが印象的です。台湾のギャラリーの方なのですが、フェアの会期の前に「作品が面白い」とFacebookで連絡が来たんですよ。それをきっかけに、やりとりをしていたのですが、フェア期間中に台湾からいらっしゃって、その時に初めて対面でお会いしました。その後も、台湾の展示に出展させてもらってるんですけど、それは結構印象深く残ってますね。
※Uspace Gallery / Infinity Japan Contemporary Art Show 日本無極限 [台北]
大谷さんは公募展でキャロルさんと繋がりができたことで、台湾のアートフェア「Infinity Japan Contemporary Art Show 日本無極限 2023」でも作品が展示されていましたよね。
大谷
はい。「Infinity Japan Contemporary Art Show 日本無極限」自体キャロルさんが運営されているホテル型のアートフェアなのですが、出展もキャロルさんのギャラリー「Uspace gallery」から出展しました。
作品は公募展応募時に参考資料として送った雨のシリーズです。
福岡で行われているアートフェア「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023」でも作品を展示されたと伺いました。
大谷
「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023」もUspace galleryから出展しました。福岡では日高さんを含め神戸アートマルシェでお会いした方々とお会いしてお話もしました。
ホテルフェアと違い平場ではどんどんと来場者が流れてくるので、多くの人に作品を知ってもらえるきっかけとなりました。一方でブースを俯瞰して見ることができるため、通り過ぎていってしまう人も多くいました。神戸の時は福岡ほどの来場者はいなかったものの、部屋に入らないと作品を見れないため、よりじっくりと見てもらえた印象です。
日高さんも公募展がきっかけで「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023」で作品を展示されましたよね。
ギャラリーブース(SYSTEMA GALLERY 現:SYSTEMA PROJECT)での展示はいかがでしたか?
日高
展示の仕方についてとても勉強になりました。公募展では入選者で話し合って展示場所を決めていきましたが、「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023」では当然ながらギャラリスト主体で展示場所を決めていきました。作品を販売するための展示の見せ方や額装の仕方についてギャラリストの方からアドバイスをいただき、販売する側やお客様の視点を知ることができました。
その他にも公募展がきっかけで決まった展示はありますか?
日高
渋谷ヒカリエの8階にある8/CUBEという空間で2024年2月にグループ展をやる予定です。
神戸アートマルシェ2023で田口美術さんから出展していた作家「七月の鯨」さんとフェアがきっかけでSNSで繋がり、「グループ展をやるんだけど、一緒に参加しないか?」と誘ってもらって5人のメンバーで企画しました。
どのような作品を出展予定ですか?
日高
展示するのは「発禁本シリーズ」と名付けた新作です。政治的な理由や風紀を乱すなど社会的に不適切とされ禁止された言葉が、×などの記号や空欄に置き換えられて出版された書籍をモチーフにしています。私の作品は実際にある古い印刷物をモチーフにしているのですが、特に最近は何らかの負の要因によって出版や印刷ができなくなったものに興味があります。「Artist meets Art Fair」で展示させていただいた作品も、キリシタン版という日本の迫害の歴史が背景にある印刷物をモチーフにしています。
ありがとうございます。村上さんは公募展がきっかけで参加した展示やフェアはありますか?
村上
KOGEI Art Fair Kanazawaですね。2023年の12月1~3日に開催されたフェアで、公募展をきっかけに知り合った「3ta2 SANTANI GALLERY」さんから出展させていただきました。
あとは2024年3月に(公募展がきっかけで知り合った)あーとらんど ギャラリーのグループ展にも小作品を出展します。
公募展をきっかけに活動拠点であるKOGEI Art Fair Kanazawaにご出展されたとのことでしたが、出展時の心境はいかがでしたか?
村上
3ta2 SANTANI GALLERYから出展してみて、「Artist meets Art Fair」の時のような感じで、全然自分が知らなかったジャンルや作家さんと一緒に同じブースで展示するっていう楽しみはすごくありました。 お互いの作品の話をしたり、とても新鮮でした。
あとは大きめの作品を2点と小作品も少し出させてもらって合計8点くらいで壁面を使わせていただけたので、それはやっぱり嬉しかったですね。
竹田さんは公募展がきっかけで決まった展示などありますか?
竹田
公募展がきっかけで声をかけて頂いて、2024年の中頃に個展を開催する予定です。それに向けて準備をしています。
個展に向けて考えているアイディアがあればお聞かせください。
竹田
そうですね、ガチっと言語化しすぎるのも良くないとは思うんですけど、制作を進める中でどう消化したらいいのか持て余している部分があって。ただ最近ようやく曖昧さに対して「こうなのかな」みたいな方向性が出てきたかなと思っています。
正直なことを言うと、出展時は制作に対して悩んでいた時期だったんです。ただ、「Artist meets Art Fair」に出展して、皆さんの作品やコンセプトに触れて、自分が好きなもの、やりたいことが相対的に浮き彫りになったり、刺激をもらったりする瞬間がいっぱいありました。
そこを突き詰めていっぱい作品をつくって、これからも自分がやりたいことを画面によって実現していきたいと思っています。
ありがとうございます。皆さん 公募展をきっかけに素晴らしいご活躍をされていてますが、公募展に参加前と後で心境や活動にどんな変化があったか、改めて教えていただけますか?
大谷
やはり繋がりができたことが大きかったですね。ギャラリーさんであったり、作家さんであったり。SNSだけで繋がっていた文字の作家さんとかも現場で知り合ったりとか、色々な体験を公募展でできました。今後も発展していきそうな繋がりもできましたし、自信にもなったし、これからの活動の可能性を広げてくれるような機会になったと思っています。

村上
評価していただいたり、参加したことで新しい繋がりが生まれ、今後発展していきそうなものもあります。ギャラリーさんとの関わりもありますが正直に言うとどう変わったのかまだ実感が湧いていません。ただ今後「そういえばArtist meets Art Fairがきっかけだったな」と思う時が出てくるかもしれません。
ありがとうございます。日高さんはいかがでしたか?
日高
やっぱり自信がついたきっかけになりました。あとは「Artist meets Art Fair」が私にとって初めてのアートフェアでしたが、事務局の皆さんや他の会場スタッフの皆さんを見て「アートフェアってこんなに沢山の人が動いてるんだ!」と思って、「作家も頑張らないとな」と改めて思いました。特に休憩時間に運営スタッフの方とお話した時に、すごい人たちが集まっているんだなと再認識しました。最強のメンバーがつくりあげた舞台に自分が立たせてもらっているんだなと感じ、頑張っていこうという気持ちが強まりました。
そう思っていただけてとても嬉しいです。竹田さんはいかがですか?
竹田
やっぱり参加できたことが本当にいい経験でした。
日高さんのお話と被るのですが、スタッフさんがこれだけいるイベントで、神戸メリケンパークオリエンタルホテルという神戸で名の通ったホテルを会場に、ギャラリストさんや作家さん、来場者の方々と接することで一層作家としての意識が強まりました。
一緒に公募展に入選した方々は、人柄も素敵で、作品のクオリティも高くコンセプトもしっかりしていて、そういった方の考えや姿勢に触れることが、本当に刺激になりました。
ありがとうございます。最後になりますが、今応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
竹田
応募が簡単で、素敵なご縁やチャンスなど色々なものを得られる素敵な機会だと思うので、ぜひ前向きな気持ちでチャレンジしてください!

大谷
毎年違うメンバーが選ばれたり出展するギャラリストさんも変わったりすると思うので、一概に僕たちの経験がそのまま反映されるとは思わないんですけど、毎回色々なご縁があると思います。応募方法も複雑じゃないので、気になったらぜひ応募してみてほしいと思います。

日高
やっぱりアートフェアって聞くと敷居が高く感じるし、どんな感じなんだろう?と応募しようか悩んでる人もいると思います。そういう人に向けてのメッセージですが、私も初めてだったので何が起こるかわからなかったのですが、スタッフの方がすごく丁寧にサポートしてくださるので、安心してみんな応募してくださいねって思います。

村上
公募展って実力だけはなく時には運もあったりするかもしれませんが、 実際入選してみて、会場でギャラリストや作家さんなど、色々な人たちと話すことで成長できると思います。
落選してしまったとしても、会場に行って出展しているギャラリーや作家さんとたくさん話せばいいのかなと思います。 入選落選に関わらず、為になると思うので、 ぜひ会場に行っていろんな人と話して、そういう空間を満喫していただければいいんじゃないかなと思います。

ARTIST PROFILE

大谷 陽一郎 / 竹田 恵子 / 日高 衣紅 / 村上 有輝さん

1990年大阪府生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。在学中に清華大学(北京)交換留学。漢字を素材とした視覚詩の制作を通して、見ることと読むことの繋がりや、形・音・意味の相互関係を探求する。主な展示に、個展「AmE」(Bohemian’s Guild CAGE,2023 )、二人展「Echoes」大谷陽一郎×ヒョーゴコーイチ(Miaki Gallery、2023)など。主な受賞に野村美術賞(2022)、「SICF24」 EXHIBITION部門 スパイラル奨励賞(2023)など。



大谷 陽一郎 / 竹田 恵子 / 日高 衣紅 / 村上 有輝さん

神戸大学 発達科学部(現国際人間科学部)
人間行動表現学科 造形表現論コース 卒業

遠いのに近く
寒いのに暖かく
興奮するのに寂しく
未知なのに懐かしく

新しく未知な、風景・空間・対象を描くことをテーマとしており、
それらの空間は、作家の視覚的経験や描く形から生まれます。

対象の再現ではなく、絵画そのものとして存在感を持ち、鑑賞者の記憶や感覚に訴えかける様な絵画を創りたいと思っています。



大谷 陽一郎 / 竹田 恵子 / 日高 衣紅 / 村上 有輝さん

1990年生まれ。茨城県在住。時代に翻弄され消失していった印刷物に関心を持つ。過去の印刷物が辿った運命を追体験するように、数百層のインクを手で摺り重ねている。インクの重なりと次第に崩れていく造形によって、その印刷物と共にあった人や場所の物語を表そうとしている。



大谷 陽一郎 / 竹田 恵子 / 日高 衣紅 / 村上 有輝さん

自然風景の色彩や形から共通する構造や法則に目を向けている。
布に染料を染み込ませながら描くことに水と内面性の繋がりを感じ、友禅染めの手法・素材を用いて絵画作品を制作をしている。



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